さくらのクラウドと、レッドオーシャン戦略
ブルーオーシャン戦略。
まだ開拓されておらず競争が無い新たなマーケットをブルーオーシャンと呼び、価格をはじめとした血みどろの戦いをしなければならないマーケットをレッドオーシャンと呼びます。
なら、レッドオーシャンを泳ぐより、ブルーオーシャンを泳いだほうが良いじゃないかということ。
これは欧州経営大学院教授のW・チャン・キムとレネ・モボルニュが著したビジネス書で述べられたもので、日本ではランダムハウス講談社から「ブルー・オーシャン戦略 競争のない世界を創造する」として出版されています。
例えば、10分1000円のQBハウスは他の理容店と血みどろの戦いをしているように見えつつ、スピードという差別化要因によって顧客数と業績を伸ばし、実はブルーオーシャンのプレイヤーなのだということが示されています。
これ以上の内容については当該書籍に任せるとして、先日#cloudmixや#yakocloudにて私が発言した「さくらのクラウドにおいて、レッドオーシャンを泳ぎきるというのが戦略」という事について述べてみたいと思います。
さくらのクラウドは、昨年11月に開催されたクラウドエキスポにおいて「何の変哲もないIaaS型クラウドを圧倒的なコストパフォーマンスで提供する」というキャッチで発表をしました。
IaaS型クラウドにおいては、これから競争が激化することが考えられ、各社高付加価値化による差別化を考えている中にあるわけですが、当社はあえて「低付加価値戦略」というのを提起したいと思っています。
アメリカの国立標準技術研究所が発表した「クラウド定義」というものがありますが、それに対する「さくらのクラウド(IaaS)」の解は以下のとおりです。
- マルチテナント
- すばやい増減
- オンラインアクセス
- 見える化
- セルフサービス
当社の用意するシステムを共用しコストをシェアして頂くことで、安価かつ大規模、高信頼なシステムを利用頂けます。
数十秒でサーバやストレージを用意したり、解約したりできます。
日本一のバックボーン容量の回線を経由し、高速かつクライアントに依存しないアクセスを保証します。
利用状況を常に把握でき、適切なシステムサイズを判断できます。
お客様自身でサーバは当然のこと、ネットワークを含めて自由に設計ができ、全て自動化されています。
私たちの解は、高性能で安定性の高いサーバを安価に提供され、それを自由にネットワーク化でき、使いやすいコンパネ or API で即座に増減できればいいじゃないかというものです。
これはクラウドの定義からまったくぶれていないつもりです。
自動でスケールアップしないし、サーバの中身を管理しないし、メールの大量配信機能も無ければ、CDNも備わっていません。いわば付加価値と呼ばれるものを一切付けず、必要なもの「だけ」を用意したのが「さくらのクラウド(IaaS)」です。
「必要なときに必要なだけ」がクラウドだったはずが、「付加価値」「高機能」というキーワードを元に、必要の無いものに費用を負担させられるのが今のクラウドを取り巻く状況だと思っています。
事業者から見ても、いろいろとライセンス料や運用コストを払って付加価値を用意し、開発コストを払って高機能を付けながら、結局値段競争に入ってコストが回収できないかもというつらいところです。
そもそも付加される価値や機能の多くは事業者間で似通ったことになっており、結局差別化要因にならないということも併せてつらいところです。
むしろ、付加価値を用意せずに、パートナーがAPIを通じて価値・機能を付加して、ともにビジネスが成長する状況にしたいと思っていますし、付加価値向上にヒト・モノ・カネを突っ込むよりは、パートナーに手厚い技術サポートをしたほうが良いと考えています。
こう見ると、私たちのような「高性能、高安定性、低価格」+「拡張性」に徹した日本のIaaSは少なく、タイトルではレッドオーシャンと書きましたが、実際には意外とブルーオーシャンだと考えています。
当たり前のもの(ちゃんとしたもの)を安価に売るというのは、日本のお家芸だと思います。
日本らしいクラウドというのは世界中で売られる車のように、決して品質が悪いわけでもなく、極めてコストパフォーマンスに優れたものにすべきだと思っています。
この戦略は当たり前のように見えますが、みんなやっていないし、少なくとも大規模低コストデータセンター、自社製基盤システム、万単位のサーバの運用ノウハウなど、他社がまねたとしても数年はかかるでしょうし、その間にしっかりとシェアをとり、本当にレッドオーシャンになったときに先行者として強みを持つという形が「本当の戦略」です。
恐らくは、スケールの大きいIaaS事業者と、それを活用する付加価値に強みを持つインテグレーターに二分されるのでしょう。当社としては前者が目標です。
ところで、cloudmixではトイレットペーパーの例を出しました。
「トイレットペーパーを半額にしたからといって、倍の数を買うでしょうか?買わないですよね」という話でした。
もし気合を入れて倍使ったら、お尻が痛くて大変です。
そういった日用品(コモディティ)市場においては、高付加価値化で顧客単価を上げ、トップラインを増やすというのが当然の戦略です。
食料品なども一緒で、とにかくお尻も胃袋も倍の数/量にはなりません。
ましてや、ウォシュレット(シャワートイレ)の登場や、ダイエットの流行など、決して追い風ではありません。
ただ、サーバは安価になればもっと買ってくれるというという世界が待っています。
例えばさくらのVPS 980は、専用サーバ7,800円/月の新規契約を奪いましたが、従来の10倍以上の新規申し込みを受けており、1年で2万を超えるインスタンスが稼働中(解約を差し引いた純稼動数)ですし、上位プラン比率も高まってきました。
コンピューティングリソースが更に安価に、更に使われる世界がくると思っていますので、価格が下がることは市場の縮小を意味するものではないと思うのです。
(といいつつ、月額千円を切るようなIaaSを出すツモリはなく、「絶対価格」を下げることに意味は無いと思いますが...)
ところで、私の嫁がタイムリーに「トイレットペーパー買いすぎたー!」と言ってきました。
Amazonの定期便で見積もりを誤ったようで、まだ在庫があるのに送ってきたという話です。
そこで「いっぱいつかわな無くならへん。」と一言。「いや違うやろ」と突っ込み。場所以外困ること無いから、無理して使わなくていいだろうと。
しかしまあ、自宅のトイレットペーパー在庫を増やさせる or 定期的に送りつける戦略は、日用品における良い回答かもと思った瞬間でした。
クラウドではなく、我が家の日用品から攻めてくるとは、恐るべきAmazonさん。機関の陰謀ですね。
と、オチがついたところで。
ちなみに、IaaSだけでなくPaaSやSaaSに対する戦略もありますが、それは機会が来たときにということで。個人的にはPaaSがさくららしさを表現できるステージだと思っています。