LibreOfficeとOpenOffice.org: 決別から1年後の現況
Linuxを前世紀から使っているが、当時いちばん困ったのは、Windowsのユーザなら誰もが知ってるような一連の生産性スイート*に、まともなものがないことだった。唯一ましだったのはStarOfficeだが、それは耐え難いほど立ち上がりが遅くて、しかも使いづらかった。Sun MicrosystemsはStarOfficeを作っていたStarDivisionを1999年に買収し、そのソースコードを2000年に公開した。そこからOpenOffice.orgが生まれ、Microsoft Officeのオープンソース版を作るという開発努力が始まった。2010年にSunはOracleに買収され、そのすぐあとに、OpenOffice.orgの商用開発はすべて中止された。〔*: productivity suite, スプレッドシート、ワープロなど一連のOA(office automation)ソフト群のこと。〕
これまでのクローズドソースのアプリケーションなら、Oracleの放棄が完全な終わりを意味しただろう。しかしOpenOffice.orgは、LGPL(Lesser GNU Public License)のもとにリリースされていた。この無料ソフトのライセンス条項には、こう書かれている:
ライブラリの全体または一部を書き換えて、そのライブラリやそれを使った作品の制作と配布をしてもよいが、しかしその場合は、上記セクション1に従うとともに、以下の条件をすべて満たす必要がある:
a) 変更結果もまた、それ自身がソフトウェアライブラリであること。
b) 変更したファイルには、変更したこととその日付を明記すること。
c) 変更した作品のライセンスはこのライセンスの条項に従って無料で賦与されること。
d) …(以下略)
そこでOracleが終結を宣言したとき、OpenOffice.orgのコミュニティの熱心なメンバーたちは、自分たちのリソースをプールしてThe Document Foundationという団体を立ち上げ、OpenOffice.orgが使っていたオープンソースのコードの開発を継続するための、構造とリーダーシップを維持することにした。
The Document Foundation(TDF)はオープンで独立的で自律的かつ能力主義的な組織として、OpenOffice.orgのコミュニティによるこれまでの10年間の献身的な開発努力を継承する。TDFが作られたのは、独立の機関があったほうが、企業やボランティアの貢献者が最良のものを持ち寄ることができ、最良の無料オフィススイート作り出せる、と考えたからである。
その製品は、LibreOfficeと名付けられた。当時のそれは、単純に、既存のコードベースの直接的なフォークだった。最初に行われたのは、コード中の文字列”OpenOffice.org”をすべて、”LibreOffice”に置換することだった。
The Document Foundationはただちに、プロジェクトの統治の方式をそれまでのOpenOffice.orgのやり方から変えた。つまりSun Microsystemsは、OpenOffice.orgの貢献者たちによる貢献の、著作権はSunにある、としていた。それは、合理的でもあり、とくに重大な問題でもなかった。仕事全体をどこか単一の主体が制御し、著作権を防御しなければならない。しかし、このような著作権の移転は、オープンソースのコラボレーションにとっては邪道だ。しかも、Sunはプロジェクトに対して全権を持ち、理由の如何を問わず貢献を拒否する権限も有していた。というわけでThe Document Foundationは、著作権を転移する必要性がないことをとくに明記し、すべての参加者に対して門戸を開き、厳格な能力主義*に基づいて貢献を評価することとした。〔*: Sun vs OOoのような’権威主義’的でなく。〕
The Document Foundationの結成から、1年が経った。これまで、開発は活発に行われ、300名以上のデベロッパが合計25000件以上の変更をコミットした。SuSE、Red Hat、Canonicalなどの企業も寄与貢献した。数百名の個人デベロッパが、自分たちが価値ありと信ずるプロジェクトの改良改善を目指した。
LibreOfficeの最初の安定バージョンは2011年1月25日にリリースされた。それは600万回以上ダウンロードされ、しかもその90%はWindowsコンピュータの上で使われた。LibreOfficeは今では、多くのLinuxディストリビューションにおいてデフォルトの生産性スイートだ。The Document Foundationの推計では、LinuxとMacとWindowsを合わせた全体で、約2500万人が利用している。
OpenOffice.orgからLibreOfficeへの、デベロッパの大量移民を見たOracleは最近、OpenOffice.orgのコードをApache Software Foundation(ASF)に寄贈することに決めた。これからは、真のオープンソースプロジェクトとしてASFがお世話をしていくことになる。以前のOpenOffice.org は今では”Apache OpenOffice.org“として、目下、Apache Incubatorでインキュベートされている。
ただしOracleは、言葉の正しい意味でコードを寄贈したのではない。つまり、著作権はまだ手放していない。これはApacheの用語では、ソフトウェアの「寄贈」(donation)ではなく「交付」(grant)にあたる。 The Apache Software FoundationのCommunity Development担当VP Ross Gardlerによると、Oracleの”ライセンス条件は、Apacheが完全に無干渉で前進できるに十分なものである。そのライセンスの条項は、Apacheの標準Software Grant Agreement(ソフトウェア交付合意)(http://www.apache.org/licenses/software-grant.txt)に基づくものである”。
ApacheのIncubatorは、新しいプロジェクトのまわりに、それの存続に必要なデベロッパコミュニティを確保するための事業だ。IncubatorのWebサイトによると、”外部組織や既存の外部プロジェクトからの、Apacheへの参加を目指してのコードの寄贈は、すべてIncubatorを経由する”。現在Incubator中にあるApache OpenOffice.orgの正式プロジェクト名は、したがってApache OpenOffice.org(incubating)となる。OpenOffice.org のドメインもApacheに寄贈され、将来はApacheのハードウェアへ移行する。今はまだ、Oracleのサーバ上にある。
Apacheのプロジェクトはすべて、GPLでもLGPLでもなく、Apache Software License(ASL)に従う。この許容性の大きいライセンスには、GPLのような”copyleft”の条項がない。今やApache OpenOffice.orgは、LGPLではなくASLによりライセンスされる。
もしも著作権がSun(という一主体)に移転していなかったら、ライセンスの変更は悪夢だっただろう。それぞれの個人貢献者が自分の貢献に対して著作権を持ち、彼ら全員がライセンスの変更に賛同しなければならない。でも、必ず反対者もいるだろうから、事実上、ライセンスの変更は不可能である。
すべての貢献の著作権がSunにあり、Oracleはそれをそのまま引き継いだので、ライセンスの変更は容易にできた。著作権者Oracleには、ライセンス変更の権利も当然あったからだ。
今、Apache OpenOffice.orgプロジェクトは健在だが、まだ何もリリースしていない。今はまだ、インキュベーション過程の一環として、ビルド過程を洗い直したり、Apacheとして必要なインフラを整備している。また、IP(知財)の整理も行っている。たとえば、使用しているサードパーティのコードがGPLだったら、それらはASL対応のコードやライブラリに置き換えなければならない。OOoのコードベースは巨大だから、この作業はものすごくたいへんである。
有力Linuxディストリビューションの、デフォルトの生産性スイートの地位を、Apacheが奪い返す意思はあるのか、とGardlerに聞いてみた。彼はこう答えた: “LibreOfficeなどのオープンソースプロジェクトと直接に競合するつもりはない。Apache OpenOffice.orgのコミュニティは、ライセンスの許容性が(GPLなどよりも)大きいパーソナル生産性ツールとして、できるかぎり最良のスイートを作ることに関心がある”。
結局のところ、LibreOfficeとApache OpenOffice.orgとの重要な違いは、ライセンスの許容性だ。LibreOfficeは今でもLGPLを使っている。それは正規のGPLよりも許容性があるが、Apacheのライセンスよりは厳しい。Gardlerはこう説明する:
つまりASLのコードは、どんな下流のプロジェクトでも自由に再利用できる。しかしOOoやそのほかのプロジェクトがODFのドキュメントを正しく扱えるためには、ドキュメント交換を扱う中核的な部位に関して、コラボレーションが必要になってくるだろう。
The Document FoundationもApache Software Foundationも、ともに能力主義的な組織であり、参加者はその貢献の質によって評価される。
Apache OpenOffice.orgに貢献してみたいと思うかたは、彼らのwikiにあるHelp Wantedのページを、一読されるとよいだろう。
画像: Flickrより。
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(翻訳:iwatani(a.k.a. hiwa))